歴史的瞬間を目の当たりにしたプラハにいつも通りの夜がおとずれた。
決着が付いた後、国際会議場は閑散としていた。
その屋上に、惑星・冥王星支持派のひとりの学者が佇んでいた。

その学者は煙草に火をつけて、夜空に向けてつぶやいた。
「なあ冥王星、君を守ることができなかったよ…。こんなことを言っても無駄であるということはわかっているんだが、
どうしても君を諦められないんだ…。」
プラハの夜は思いの外静かであり、そのつぶやきも微かなこだまとしてやがて消えていく。
「本当に、これは君が望んだ運命なのかい…?」
ため息をひとつつく。
冥王星…いや、プルートとのいくつもの思い出が走馬灯のようによみがえる。
そう、彼は過去にプルートという名の恋人を失うという悲しい過去を持っていたのだった。
その悲しい出来事が彼を天文学者にしたということは、この際言うまでもないだろう。

同じ太陽系の星ではあるが、この地球からは肉眼では到底見えるわけのない小さな星。
それが冥王星であり、彼の愛したプルートもまた小柄な女性であったという。
凡人では見ることのできない、素敵な何かを持ち合わせていたという…。
「いち天文学者として、ひとつの区切りがついてしまったようだ。
なあ冥王星、それでも私は君を追いかけることはできるのだろうか?
惑星ではなくなってしまう君に、それでもまだ学術的な好奇心を寄せ続けるることができるのであろうか?」
彼は悩んでいるように見えたが、考えだけははっきりとしていた。
惑星とは認められなくなったとしても、冥王星は冥王星である。
彼の愛したプルートが永遠にプルートであるのと同様に…。

「私が冥王星を追い続けている限り、冥王星は忘れ去られることはない!」
彼は決心した。
やるべき事は、今回の決議を覆すことよりも
冥王星という天体とともに、生き続けるということであると…。
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金星  「あれさ、グランドクロス?おまえ参加する?」
木星  「うぃ」
火星  「参加」
地球  「一応いまんとこ」
海王星「あー・・・あれなぁ・・俺公転周期微妙にあわねぇんだよなぁ・・・」
水星  「マジ?」
天王星「周期なげーと大変なんだよなぁ」
土星  「だよな、そっちどーよ?」
冥王星「いや、おれ・・・」
金星  「どしたん?」
冥王星「その、おれ・・・無理なんだ・・・」
海王星「なんで?周期だいじょぶっしょ?」
冥王星「そうじゃなくて・・・」
水星  「なになになに、まさか自転がらみ?あらあらあらきてんじゃねーこれ、うはww」
冥王星「はは・・・そうじゃないよ。そうじゃなくて・・・俺やめるんだ」
木星  「うん?」
冥王星「……惑星・・・止めるんだ」
一同  「…」
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冥王星「はは・・・そうじゃないよ。そうじゃなくて・・・俺やめるんだ」
木星  「うん?」
冥王星「……惑星・・・止めるんだ」
一同  「…」
火星「別に惑星じゃなくたってさ、」
冥王星「?」
水星「あぁ、これからも一緒に太陽を回り続けるんだ。俺たち友達だろ?」
一同「うん」
冥王星「みんな・・・・・・」
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太陽「ご飯できたわよー」

どやどやと、太陽家のみんなが集まった。
一番最初に来たのは一番元気な水星だった。

太陽「冷めないうちに並べてちょうだい」
火星「はいはい」

手際よく、テーブルに大量の皿やコップが並べられる。
なにしろ9人分もあるのだから、テーブル自体も相当な大きさだ。
そして、全てを並べ終えたとき、誰ともなしに声が小さくなっていった。

木星「・・・そうだったわね」
太陽「ごめんなさい。つい、いつもの癖で」

誰も座らなくなった椅子の前に、今日も湯気を上げるみそ汁と、
あいつが大好きだったハンバーグが並べられていた。
皆、黙りこくったまま動こうとしない。

火星「・・・しょ、しょうがないわねー。ダイエットの途中だけど、
    どうしてもサービスしたいってんなら食べないと悪いしねー」
地球「そーそー。今日はたまたまいつもより腹減ってたとこなんだよ」

誰も、あいつの名前を口にしようとしない。
無理矢理顔に貼り付けたような笑顔で、やっとこさ自分を支えている状態の中、
もしその名前を聞けばもう晩ご飯どころの話しではなくなるだろうから。

一同「いただきます」
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皆が楽しそうにあの人の周りを回ってるの見て、「いいなぁ」って思ってた。
ここはとても寒くて、でも私はこんなだし、でも…さびしくて 。

いつのまにか、こっそり私も回ってた。みんなみたいに上手くいかなかったけど。

見つかっちゃった時は少し恥ずかしかった。でも、嬉しかった…
皆が私に気づいてくれた。ここは寒いけど…もう寒くなかった。
私はもう、一人じゃないんだって。そう思えた。
でも…やっぱりいけない事だった。皆今まで騙してゴメンね。やっぱり私には資格がなかった。

今まで私を仲間にしてくれて、ありがとう。
皆にたくさんの温かい思い出をもらったから、私はそれで十分です。

どうか、私が勝手に回ることを許して下さい。上手く回れるように、今も頑張っています。
そうしたら、もしかしたら、また…
それは絶対にない。頭ではわかってる。でも、そうせずにはいられない私を、どうかゆるしてください。
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